よねろぐ!

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大使が語るジョージア 観光・歴史・文化・グルメ(日記210)

ジョージアの駐日大使、レジャバ大使がSNSで話題になっています。最近では日本に遊びに来た親戚の男の子に和食と称してカップ焼きそばを食べさせていたり、秋葉原に連れて行ってデカい紙袋を持たせていたり、今一番バズっている公人といって良いのではないでしょか。

今回はそんなジョージア駐日大使、レジャバ大使とゴギナシュヴィリ博士による共著、「大使が語るジョージア 観光・歴史・文化・グルメ」を紹介します。

ジョージアという国の素晴らしさ、観光として訪れたならここを見てほしい!これを食べてほしい!という魅力がたくさん紹介されていると共に、読み進めていくうちにただの観光ガイドブックではないと気付かされ、国と民族の主権の在り方について考えつつ、最後はレジャバ大使の情熱に痺れる一冊です。

聞き馴染みのない「ジョージア」という国がかつて呼ばれていた名前を知ると、なお深く考えさせられます。読み終わった後に日本人として、いろいろ考えようと思った。めちゃめちゃ良い一冊です。

本書はまえがきから、レジャバ大使のジョージアに対する愛情と日本文化への深い理解、そして両国の文化に共通する「おもてなし」の精神が紹介されています。また、地理的にアジアとヨーロッパに挟まれ、各時代の帝国との争いを経ても独立を勝ち取ってきたジョージアの歴史が育んだ国民意識と文化の深みもわかりやすく紹介されています。

強かでありながら、おおらかでホスピタリティのある国。自然豊かで都会と田舎が近い国。水資源が豊富でご飯とワインが美味しい国。このまえがきでジョージアのことが好きになった方も多いと思います。ジョージアという国のかたちがとても簡潔に説明されており、興味が湧いてきました。

ジョージアと日本。共通する精神性や価値観はとても多いと大使も記しています。

東ヨーロッパとも西アジアとも言い切れない位置にあるジョージア。市街にはキリスト教の教会も、イスラム教のモスクも、ユダヤ教シナゴーグもあるようで、まさに文化の交差点。文化のるつぼ。シルクロードも通っている。こういう場所はやはり交易の拠点になっているようで、ジョージア人の寛容さに繋がっているのだそうです。

地理と歴史の解説のあと、早速ジョージアの観光地について記されていきます。温泉街がある首都トリビシの街が写真入りで紹介されており、レジャバ大使の自分の地元を楽しそうに紹介している書きぶりに引き込まれていきます。

その首都トリビシの写真では市街地のメインストリートの奥にもう山が見えており、本当に都市と自然が近いんだなと思いました。この山の付近は旧市街的な位置づけだそうで、モダンなカフェがあるそうです。

大使の説明は「ここのレストランは分かりづらいけど綺麗でおすすめ」とか「ここのマックは待ち合わせによく使われている」といったように、トリビシを歩いている目線で教えてくれるので、大使と街を歩いているような感覚で街歩きしているような錯覚に陥ります。

首都トリビシを大使と歩いたあとは、日本で言うところの京都、世界遺産の街ツムヘタの説明。古都だそうで歴史的な教会が多く、結婚式などがよく催されるそうです。首都トリビシから車で30分程度だとか。その次は黒海沿いのリゾート地であり国際貿易港の街バトゥミの説明。バトゥミは日本で言う横浜か神戸のイメージだそうです。柑橘類の栽培が盛んで、日本の温州みかんも栽培されているのだとか。

次に「ヨーロッパ最後の秘境」と呼ばれる世界遺産の村スヴァネティの紹介。写真も載っており、石積みの塔と建物の裏手に山や丘があって、風を感じる風景です。ここは有事の際に大切な宝物を隠す秘境だったそうで、独立心の強い民族がロシア帝国の侵略にも激しく抵抗した歴史があるようです。

そして未だに独自の文化とシュメールの太陽信仰が残るトゥシェティという街について、大使自身も驚いた経験が語られています。観光地だけでなく、世界の禁忌に触れそうなミステリアスな印象も持たせてくれます。魅惑の国だ。

 

各街の紹介のあと、大使がおすすめする観光ルートを紹介していますがジョージアを網羅するには2週間は滞在してほしいそうです。2週間あれば各地の文化も、自然も、歴史も、食べ物も堪能でき、ジョージアにはそれくらいの奥深さがあるそうです。

ここまででほぼ、本書の半分くらいなのですが、もう気分はジョージア観光した後のような気持ちになっていました。首都トリビシで温泉に入って、古都へ行って、秘境へ行って。あとはワインと食べ物を楽しめれば!というところまで気持ちが昂ぶっています。

観光地の説明を読んで、なんとなく飛騨高山に行ったときの感動を思い出しました。美しい観光地に当たり前のように人が住んでおり、観光と日常と一体化している場所に居る心地よさ。ジョージアの魅力もそういったものなのかもしれません。

 

本書後半からはジョージアで最も大事な宴会の儀式「スプラ」について紹介されており、これこそジョージアの文化がよく現れていると感じました。引用します。

「スプラとは、参加者それぞれがワインで乾杯しながら自身の経験や思いや教訓を語り、詩や音楽やダンスを披露するものです。(中略)

スプラでは12、13くらいの乾杯の言葉があって、それに合わせてワインをいただきます。平和の乾杯、家族の乾杯、女性の乾杯、亡くなった人の乾杯、友情の乾杯、健康の乾杯、子供の乾杯、おじいちゃんやおばあちゃんの乾杯、ホストの乾杯、ゲストの乾杯…とか。」

スプラの文化はたくさんあり、最近では厳格なルールに沿ったスプラは減ってきているようですがその本質は以下の精神によるものだそうです。

「どんなスプラにも共通する本質は何かというと、自分を表現しつつ相手を理解するということです。人の気持ちが分かる、コミュニティの中で相手のことが分かる、それで学びや発見を得られるのがスプラなんですね。」

帝国に挟まれたジョージアという国。昨日の敵は今日の味方となり得る状況と歴史が育んだ「自分を表現しつつ相手を理解する」という精神は素晴らしく崇高で、コミュニケーションの本質であり、教科書のような考え方だと感じました。

ジョージアの観光地や食べ物を紹介するだけ、と思うなかれ。本書にはジョージアが育んだ奥深いおもてなしの文化とコミュニケーションの本質が隠されていたのです。

 

本書の後半に入るとジョージアの歴史について、さらに詳しく紹介されていきます。紀元前3世紀ごろに形作られ、中世にふたりの偉大な王による黄金期を迎えます。そこから今日に至るまで、連綿と民族の一貫性を保っています。

その後、1801年にロシア帝国による侵略により20世紀末頃まで併合されてしまうのですが、過去退けてきたペルシア帝国やオスマン帝国とは異なり、ジョージアと同じ正教会を国教としているロシア帝国との戦いでは国と民族のアイデンティティが保てなくなったのだそうです。なぜ同じ宗教を立てている国と戦わなくてはならないのか、とわずかな迷いが出てしまったのだと思います。

そこで、ジョージアという国と民族のアイデンティティを守るためにジョージアの言葉と文字が注目され、すべての国民はジョージア語の読み書きができるようにしよう!という運動が起ります。

このあたりは歴史と共にさらりと書いてありますが、国のアイデンティティ、精神的主柱の大切さが記されており現代の日本人には頭が痛い部分かもしれません。

 

そして、ジョージアのロシア語の読み方が明かされます。「グルジア

最近話題になっている、この陽気で明るい雰囲気のジョージアという国はかつてグルジアと呼ばれていたのです。聞いたことがあるのはグルジア紛争。というワード。そしてロシアから独立を果たしたこと。呼び方をジョージアに変更したのは2015年のことでした。そもそもジョージアって国あったかな?と思いながら読み進めていたのですが、ここでやっとわかりました。これを知ってから、大使の持つ世界に対する情熱の意味がはっきりわかりました。

「今のジョージアという国は、ソ連時代にいろいろな文化が変えられそうになったものの、ジョージア人は自らの文化を頑固に守ろうという気質があったため独自の文化が残り、それが開花しています。」

「先ほど、ジョージアが多くの大国や帝国から自らのアイデンティティを守り抜いてきたというお話をしましたが、それに大きな役割を果たしたのが自分たちの言葉、ジョージア語です。(中略)外国に行ったりすると、自分の思いや感情を表したり、人が考えていることを読み取ったりして人と人との心をつなぐ上で、言葉の大切さがよく分かると思います。」

ジョージアは国の文化を守る、民族のアイデンティティを守ることの重要さを教えてれています。それでもなお、こうやって駐日大使が前に立って観光に来てくださいと活動している姿に感動を覚えます。

 

さて、本書の終盤はなんとジョージア料理のレシピが紹介されています。もちろん有名なシュクメルリもカラーページで紹介されており、さらにジョージア料理に欠かせないスヴァヌリ塩や日本で言うところの醤油的な役割のツケマリという梅ベースのソース、アジカというスパイスなどなど、たくさん紹介されています。

「薪焼きで作ったパン、チーズ、ツケマリ」というのが最も基本的な料理なのだそう。チーズ入りのパン、ハチャプリという料理は日本でいうおにぎりみたいなものだそうです。

数年前、松屋で注目されたシュクメルリは実は国民食というよりはジョージアのある地方の郷土料理だそうで、ジョージア人でも食べたことがある人は少ないのかもしれません。

後半のレシピコーナーはとても詳しく、写真つきで書かれておりとても使えると思います。あとは食材、とくにスパイス系が手に入りにくそうなのでそこはAmazon併用が良さそうです。

 

あとがきではレジャバ大使の熱い想いが綴られています。ここまで読んで、その優しくておおらかな人柄を感じていたのですが、さらに内側に秘める情熱が現れており、とても感動しました。

「私は、そのような文化や歴史的な経験という、ある意味では経済や政治よりももっと人間の根底にある分野でこそ、ジョージアと日本の交流に計り知れないレベルの新たな可能性があると考えています。」

読み始めた時は駐日大使が観光本を出版したのだ、くらいライトに考えていたのですが、レジャバ大使の愛国心と人類をより良くしていきたいという強い情熱に触れることができました。痺れるぜ、大使。

 

平和な国で生活できる幸せを享受している間にも、自分を表現することと相手を理解することを忘れてはならないと、レジャバ大使に教えられました。

ジョージアの観光だけでなく、歴史とそこから勝ち得た価値観と文化を知ることができる、とても良い本に出会うことができました。