温泉はクサくてキタナい(好意的に受け取ってほしい)ほうが好きなタチで、妙高山から湧き出る燕温泉はまさにクサくてキタナい最高の温泉といえる。硫黄の匂いと熱めのお湯、それでいて肌に優しい湯花たっぷりの燕温泉に魅了されたのは昨年の春先だった。ほのかに香る温泉卵に似たのあの匂いはしばらくタオルに染み付いた。
色々あった2023年末、またあの硫黄の匂いに包まれたいと燕温泉に浸かりに来た。
燕温泉は妙高にしては珍しくスキー場が併設されていない温泉街だ。共用の駐車場から坂道なりに数軒の温泉宿が連なっており、その先は徒歩で行ける秘湯(夏季のみ)も隠されている。道には温かい温泉が流れ、除雪の心配はなさそうだがそれでも所々新雪が島のように積もっていた。歩きながら坂の上を見やると一瞬、日本ではないどこかスイスとか、そういう標高の高い街のような景色かとみまごう。ちなみに僕はスイスはおろか、海外に行ったことはない。この道の先には妙高山の登山口がある。
花文は良い宿だと思う。建物は古いが、この古さによって温泉成分がジワリと身体に染み込んでくるような気持ちにさせてくれる。これが風情というものなのだろう。
この日は日帰り客数名と自分だけのほぼ貸し切り。男性のお風呂には写真を取った時は自分一人だったが、じきにもう一人おじさんが入ってきた。大きいお風呂に浸かるときは一人より誰か居てくれたほうが落ち着く気がする。根拠はない。
たっぷり、もわもわな湯花が舞うお湯。ちょっと熱め。何度も言うが匂い強め。硫黄泉。でも案外、肌には優しいと思う。
疲れを癒やすには熱めのお湯が良い。毛穴がガっと開き、汗腺から老廃物と汗が吹き出て、上がったあともしばらくほかほかしてるくらいが良い。
ああ、今年もいろいろあったなと思い返そうとしたが、思い出せないことの方が多い気がする。疲れを癒やすと言ったものの、何に疲れたかさえ思い出せない。所詮そんなものさ、と心のなかでつぶやいた。
何に疲れた、とか、何に憤りを感じた、とかより「今年もたくさんの友達に助けられて、たくさんの友達と楽しいことをしたな」と思い返すことにした。なんだか前向きな気持ちになった。来年もひとつまたよろしく。
そんな気分で新しい年を迎え討とうじゃないか。